舌がんは、若年者から高齢者まであらゆる世代に発症します。病因として、歯牙の影響は無視できません。固い歯からの刺激が、一定期間にわたり舌粘膜に及ぶと、粘膜の白板化、びらん、潰瘍形成あるいは隆起性病変が出現し、がんの発生に至ります。飲酒や喫煙、口腔(こうくう)内の不衛生も発症を促進する原因になります。従って、舌がんではとりわけ予防医学が重要で、歯の影響が舌に及ぶことを回避する処置が第一に優先されます。
舌がんの早期発見に、自己触診に勝る方法はありません。舌を指で触れ硬結(こうけつ)を自覚したり、圧迫や舌の可動で痛みを感じたり、あるいは食事が染みたりする時は要注意なので、専門機関を受診してください。早期がんでの治療は、長い目で見ると舌部分切除が一番後遺障害の少ない方法です。この疾患は、リンパ節転移や局所再発も少なくなく、加療後の注意深い経過観察を必要とします。進行がんでは、残存舌機能を僅少にする目的から、摘出と同時に遊離移植皮弁による舌再建術を併用します。第4期になりますと、術後の誤嚥(ごえん)防止のため喉頭の合併切除が必要な場合もあります。治療は進行度に応じて、手術以外に抗がん剤や放射線治療を併用します。ただし若い世代に対する放射線治療は、味覚障害や晩期放射線誘発がん、下顎骨(かがくこつ)の腐骨などを併発しかねないため、より慎重な対応が必要です。
このように舌がんでは、治療後の後遺障害を僅少にするために早期診断・早期加療が重要で、自分で観察できる範囲のため、生活の上での自己管理が大切になります。
上尾中央総合病院 頭頸部外科 科長
東京医科歯科大学医学部 臨床教授 西嶌渡