アシネトバクターは土壌や河川に存在し、健康な人の皮膚からも見つかる菌で、通常は無害です。しかし体力が落ちていたり重い病気にかかったりしている人などに感染して、重い肺炎や敗血症を起こします。菌はその人の体力をみて、問題がなければ静かにし、弱っている人には襲い掛かります。このような感染を日和見感染といい、アシネトバクターは日和見感染の代表的な菌です。
アシネトバクターの集団感染が病院の集中治療室などでみられることがあります。消毒の不十分な医療器具や医療スタッフを介しての感染が考えられます。体力の弱った人がかかるので、治療がうまくいかないことが多く、最近では抗菌薬がほとんど効かない多剤耐性菌が海外から流入し、その集団感染が報告されていて、治療を一層困難にしています。
アシネトバクターは健康な人に感染しても害を及ばすことはほとんどありません。診療所の外来で感染する心配もほとんどありません。しかし病院外でアルコール依存症や慢性肺疾患、糖尿病、肺がん、肺硬変、腎不全などにかかっている人に感染がみられることがあります。せっけんまたはアルコールによる十分な手洗いで感染を予防できます。入院している人を見舞う時には、アシネトバクターを持ち込んだり、自分が感染したりしないよう、病室に入る前後にせっけんやアルコールによる手洗いをするようにしてください。糖尿病や慢性肺疾患などにかかっている人は、その治療を適切に行うことが予防になります。
かわかみこどもクリニック 川上哲夫
