自殺対策基本法が制定され、国を挙げての取り組みの結果がようやく表れ、1年間の自殺者が3万人を切るようになりました。しかし、働き盛りである25歳から44歳までの男性の死因の1位は自殺であり、年間1万人と推定されている過労死のうち、過酷な労働条件や仕事上のストレスが原因と考えられる「過労自殺」は少なくとも千人、過労死の実に10人に1人は自殺で亡くなっているのです。女性や若年者の自殺も多く、自殺は決して人ごとではありません。
「死にたい」と漏らさなくても、自殺を考える人は何かしらのサインを出していることが多く、それを見逃さないことが大事です。「遅刻欠勤が多い」「飲酒量が増えた」「ふさぎ込むことが多い」「パチンコなどのギャンブルにのめり込み始めた」「いつもと違って化粧をしない」「家事や趣味をやらなくなった」「体調不良が続いている」「悲観的、不眠が続いている」。こうしたさまざまな変化が自殺に向かう危険性、あるいは治療すれば治るうつ病である可能性をはらんでいます。
心当たりのある人は、勇気を出して身近な誰か、あるいは専門家に相談しましょう。気づいた周囲の人は、心配していることを本人に伝え、「死にたい」と言う場合であっても「そんなこと言わないで」と説得するのではなく、まずは話を聞いてあげてください。そして、決して自分一人だけで何とかしようと考えてはいけません。どれほど身近な家族であっても、日々を生きることが大変だと感じている人を救うのは大変なことです。うつ病など心の病気が原因で追い込まれている場合も多いので、精神科医などの専門家に相談しましょう。
(平成28年9月 上尾の森診療所 佐藤順恒 )